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味も香りもない天ぷらを揚げている職人が多いと 「にい留」の主、 新留修司はいう。
高温で、 長時間揚げるため素材にダメージをあたえてしまう。
結果、 素材の味も香りもない天ぷらになりがちだというのだ。
そのせいか、 魚を食べるなら天ぷらよりも寿司のほうがおいしい、 と大半の日本人が思っている。
寿司こそが日本を代表する魚料理だというのだ。
「でも、 木村さんは、 天ぷらも寿司にまけないぐらい凄い料理であることを理解してくれています」
新留が「すし 㐂邑 (きむら) 」の木村康司と出会ったのは10年前。
木村の店で天ぷら屋の会合があり意気投合。 いまや「トメ」、 「兄やん」 と呼び合う間柄。
二人で国内外で食事会を開いてきた。
天ぷらと寿司。 ジャンルこそことなるが、 兄やんに刺激をうけた新留の料理も進化をつづけている。
今回は、 新留の兄やんと魚への思いを紹介する。
似たような性格だったことから意気投合
木村の店で天ぷら屋の会合があったとき、木村は天ぷら職人のひとりと
して新留とはじめて接した。このとき木村は、魚の話を天ぷら職人にし
た。曖昧な答えをする人が多いなかで、自分の考えや意見をはっきりとい
えたのが新留だった。
「僕もトメと同じような性格。自分に正直に生きているトメに共感しました」
当時名古屋にあったにい留へ食事に出かけた。
「天ぷらは、厚いころもでたねを包んで揚げる、蒸し料理だといわれてい
ました。でも、 トメは薄いころもと旨味の出し方が上手。これまでにない
天ぷらを揚げる職人でした」
自分の意見を主張できると思っていたが、その反面、 「くすぶっている」印
象をいだいていた。店内での撮影を禁じていたり、食べログもやっていな
かったからだ。
「すぐれた技術があるのだから、もっと堂々とやるべきだとトメに伝えま
した」
新留は撮影も食べログも許可した。結果SNSや食べログににい留の記
事が投稿されはじめたことで人気店になっていった。
二人は夫婦以上の関係かも
ロンドンや香港などで二人三脚の食事会を開催
閉じこもっていた新留を世界に連れだそう。海外の食事会に呼ばれてい
た木村は、 8年ほど前海外のイベントに新留を連れていった。
「慣れない場所での料理はたいへんでしたが、 トメも日本の良さを再確
認できたはずです」
もうひとつ悩んだことがある。どうすれば海外のお客に喜んでもらえる
か。このことだ。
「おいしいものは素直に喜んでくれるし、 『笑顔で食べてもらうことが大
切だ』 とトメと話をしました」
国内で新留と食事会をするときも愉しく食べてもらうように心がけて
きた。
「二人ともその思いがブレていないからこそ、いまも仲がいいのだと思
います」
干ぴょう巻も兄やんの定番
「トメの天ぷらは素材の旨味と香りを表現しています」
木村は独立前、天ぷら屋で修業をしていた時期がある。天ぷらと寿司
のちがいを理解しているからこそ「寿司よりも天ぷらのほうがむずか
しい」と木村は主張する。
天ぷらと寿司の決定的なちがいは、ころもで包んだ素材を油で揚げるこ
とで、旨味と香りを表現できるところにある。けれど、ころもをうまく作れ
ないと、嫌な匂いがこもってしまったり、素材の良さを存分に引き出せな
いと木村は指摘する。
「トメは旨味と香りを引き出した天ぷらを揚げられる、数少ない天ぷら
職人です。僕がどれだけ魚を熟成させようが、 トメの天ぷらのように、寿
司では旨味と香りを表現できません」
「天ぷらは寿司よりも一段上だと思います」 (木村康司)
出会ったばかり頃は、何度もトメの天ぷらにダメ出しをしていた。ところ
が、ある日を境に黙って味わうようになった。じつは、木村も同じような
経験をしていた。天ぷらの師匠が寿司を食べに来てくれていたのだが、
小言をいわれつづけた。
「ある日ダメ出しではなく、 『後ろ髪を引かれる』と師匠にいわれたこと
が、いまも心のささえになっています」
トメの天ぷらが進化したと感じたとき、 「寿司では、 トメの天ぷらのよう
に旨味も香りも表現できない」とトメに告げた。
「トメの仕事は、寿司職人ではまねできないレベルに達しています」
兄やん愛用の米も富士酢も紹介してもらった
「兄やんのクリエイティブ力に惹かれます」
一方、 トメは兄やんのどこに惹かれるのか。
「おいしい寿司を握るだけでは物足りないと考えているところです。柔軟
で、クリエイティブな発想にも惹かれます」
有名になると無難な世界でまとまりがちだが、木村は常に新しい食材を
探している。
「いいものを見極める力があるし、いいと思ったらすぐに取り入れます。
僕には、兄やんのようなクリエイティブ力がありません。兄やんを尊敬し
ています」
兄やんは、自分が出会った宝物のような食材をトメに教えてきた。
富士酢もそのひとつ。名古屋時代、ほかの酢を使っていたが、兄やんがダ
メ出しをし、すぐに富士酢を送る手筈を整えてくれた。
海苔の天ぷら。 ウニは脇役なのだそうだ
「おいしく揚げられるのは、 ころもの力」
「宮城産の海苔も兄やんの紹介です」
海苔の天ぷらに、ウニをそえて供している。ウニは、大千ブランドで流通
している大間産。だれがどう見てもウニが主役で、海苔は脇役だ。けれ
ど、 「海苔が重要で、ウニはトッピング」だと新留はいうのだ。なぜなら「
水分がない焼き海苔の香りや味わいを引き出すのが難しい」からだ。
新留が一番好きなたねは穴子だ。穴子をやさしい温度帯で、短時間でふ
わりと揚げている。どのぐらいサクフワか実演してくれた。
「穴子を空中で切ります」
菜箸ではさんだ穴子の天ぷらを軽くふっただけで半分に切れた。
「穴子も海苔もおいしく揚げられるのは、すべてころもの力です」
穴子の天ぷらは塩もうまいが、 天つゆも美味
次のようなコメントを新留はSNSに記している。
「生で魚を美味しく食べる日本だからこそあえて天ぷらにする。少しだけ
水分を抜く。高温を使わず、火を止めて優しく余熱で揚げることで無限の
広がりがある」
フィッシュイーターの日本人の大半が、寿司こそが日本を代表する魚料
理だと信じている。けれど、魚の旨味と香りを存分に引き出したにい留
の天ぷらを堪能すれば、天ぷらも日本が世界に誇る魚料理だと再確認
するはずだ。
「これからも兄やんに恥をかかせない天ぷらを揚げていきます」
敬愛する兄やんの紹介で新留は「やまつ辻田」 と出会った。次回最終回
は、やまつ辻田の香辛料を使ったにい留の料理をご覧いただく。
(敬称略)
(撮影/海保竜平、取材・文/中島茂信)
※現在、にい留は撮影禁止。今回許可を得て、撮影させてもらった
【天風良 にい留】
東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 1F
03-6432-4755
営業/18:00~
定休日/土日祝日、完全予約制
【天風良 にい留】
東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 1F
03-6432-4755
営業/18:00〜 
定休日/土日祝日、完全予約制
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