share
ころもを進化させ︑
天ぷら の可能性 を
追求する
ブロッコリーの天ぷらを揚げる新留修司
「天風良 にい留」の天ぷらには香りがある。
ごま油の香りではなく、
たねにふくまれる香りを愉しませてくれる天ぷらがあることを、
新留修司に教えてもらった。
もうひとつ、
気づかせてもらったことがある。
レンコンの天ぷらを齧った瞬間、
レンコンが甘いことをはじめて知った。
シャキシャキ感だけが持ち味だと思っていたレンコンに、
甘さや滋味があることを認識させてくれた。
レンコンだけではない。
キスにもブロッコリーにも甘みがあることを教えてもらった。
「天ぷらの可能性、
俺は誰よりも信じてます」
新留はSNSに記しているが、
天ぷらの可能性を呼び出すためにどう揚げているのか。
辻田浩之にもわかるように説明してもらおう。
「素材の糖分を呼び出しグラッセのように揚げます」
「ブロッコリーは高級食材ではありませんが、きちんと揚げてあげると香
りも愉しめます」
「ええ香りやわあ。僕は香りの仕事をしているので、めちゃくちゃ鼻がい
いです」
「瑞々しさを残しつつ、水分が凝縮するように揚げています」
「でも、こげているし」
「こげではありません。ブロッコリーの糖分です。素材の糖分を呼び出す
ことでグラッセのように揚げます」
砂糖やバターでつやがでるように煮詰めたのがグラッセだが、ころもを
つけた素材を最適な温度で揚げるとグラッセのように仕上げることが
できるというのだ。
「けれど、それにはころもを進化させなければなりません」
いったいどんなころもで揚げているというのか。
ブロッコリーもレンコンも黒いのはこげではなく、
野菜の糖分
天ぷらのころもの役目とはなにか
その前に、天ぷらのころもには、どんな役目があるのか探ってみたい。
手元に『天ぷら』
( 柴田書店)という本がある。昭和43(1968)年に出版
された同書には、ころもの役目についてこう書かれている。
〈ころもが外から熱を受けて中のたねを蒸し焼きにすること、そして同時
にたねから出る水分(うまみと栄養分)を外へ逃さないように膜となる
ことである〉
つまり、ころもで膜をはり、蒸し焼きにするのが天ぷらだ、と半世紀前に
書かれている。
その後、数多の天ぷら職人が登場し、独自の揚げ方を追求してきた。
たとえば以前、筆者は、ある高名な日本料理人にころもの作り方を教え
てもらった。
ふるいにかけた小麦粉に冷水と卵で作った卵水を加え、さっとかき混ぜ
てころもを作る。ダマダマのころもにすることで小麦粉にふくまれるグル
テンをおさえ、
カラッと揚げられるとならった。
日本料理人も天ぷら職人もおよそこのようにころもを作ってきたはずだ。
たねに打つ小麦粉も冷凍庫で3日寝かせたものを使っている
「小麦粉を冷凍庫で3日寝かせています」
新留は、ころもを進化させた。
たしかににい留でも卵水を使っていたし、ふるいにかけた小麦粉を用意
していた。
先述した本には、
〈 その日一日使う分量を冷蔵庫に入れて冷やしている
ところもある〉と書かれている。ところが、にい留では、ふるいにかけた小
麦粉を冷蔵庫ではなく、冷凍庫で3日寝かせているというのだ。
「マイナス60度だと粉が凍結するので、マイナス55度ぐらいで冷やして
います」
冷凍庫に3日入れておくと小麦粉がパウダースノウのようにサラサラに
なり、グルテンの力をおさえこむことができるというのである。
冷やした小麦粉と卵水で作ったころもをたねにつけて揚げるわけだが、
「高温に熱した油で、長々と揚げてはならない」
と新留は宣言する。
高温で揚げない。
それがにい留の信条。
動画もぜひご覧いただきたい
「やさしい温度帯で手早く揚げています」
なぜ高温で揚げないのか。
「高温で揚げると素材にダメージを与えてしまい、糖分も香りもこわして
しまいます」
そのためにもやさしい温度帯で、かつ手早く揚げなければならないし、
火を止めて予熱で揚げることもある、というのだ。
天ぷら職人の多くが高温で揚げ、ころもを固めてから素材にふくまれる
水分を抜く。
新留の揚げ方はその真逆だ。新留は素材の水分を抜くことを
「脱水させる」
と表現するのだが、脱水させてからころもが固まるように揚げている。
ころもが固まった後、脱水させたのでは、
「 時間がかかりすぎだ」からだ。
揚げはじめた瞬間脱水し、花火のように揚がる
新留の揚げ方を動画で見てみよう。
天ぷら職人のなかには揚げている際、天ぷらと天ぷらを菜箸で切りな
はす人もいる。天ぷらと天ぷらがくっついてしまうからだ。
けれど、にい留の天ぷらはくっつかないどころか、むしろはなれていく。
ころもをつけた素材を鍋にいれた瞬間、脱水がはじまり、それが泡となっ
て花火のように全方向に広がり、周囲の天ぷらをはじきとばす。
「ころもに通気孔があり、その孔から勢いよく脱水します。油にいれた瞬
間脱水し、ころもが固まります。だから揚がるのがはやいんです」
「食材の甘みや香りを引き出した留さんの天ぷらは絶妙やし、
おもしろい」
やさしい温度帯で短時間で揚げることで素材に与えるダメージが少な
い。だから素材の色も香りも瑞々しさも残したまま揚げることができる。
「ころもに通気孔があるので、ころもが口のなかでとけるようなテクスチ
ュアも愉しめると思います」
これが新留が考える「いいころも」だというのだ。
「料理人で最初に僕の天ぷらを理解し、感激してくれたのが木村さんで
した」
「すし 㐂邑(きむら)」の店主木村康司が、新留を見つけてくれたという
のだ。
次回は「兄やん」、
「トメ」
と呼び合う新留と木村の話をしようと思う。
(敬称略)
(撮影/海保竜平、取材・文/中島茂信)
※にい留は撮影禁止。今回許可を得て、撮影させてもらった
【天風良 にい留】
東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 1F
03-6432-4755
営業/18:00〜
定休日/土日祝日、完全予約制
【天風良 にい留】
東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 1F
03-6432-4755
営業/18:00〜 
定休日/土日祝日、完全予約制
このページの先頭へ