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最強 の弱者 であるために
5代目が
してきたこと
飯尾醸造5代目、飯尾彰浩としゃぶ中(後述)
丹後の棚田での田植えや稲刈りにお客に参加してもらったり。
農作業に参加してくれた人に非売品のTシャツを贈呈するなど。
飯尾醸造5代目、
飯尾彰浩はお客とのプライスレスな関係を時間をかけてきずきあげてきた。
その根底には、
弱者が生きのこるための論理がはたらいている。
東京農業大学大学院卒業後、
東京コカ・コーラボトリングに入社。
世界的な飲料メーカーで4年半、
営業教育やマーケティングを学んだ。
2004年、
29歳で丹後に戻り、
飯尾醸造に入社。
最終回は、
5代目を中心に紹介しようと思う。
富士酢ブランドを守るために
「コカ・コーラで強者のマーケティングを学びました。その真逆を実践す
れば、うちのような弱者もやっていけるのはないかと思いました」
そのためには、
よそがやっていない、競合がない世界をつくるしかない。
富士酢がよそに誇れることはなにか。
無農薬栽培の丹後米で醸した日本酒で、時間をかけて丁寧に酢をつくっ
ていること。
長年実践してきた、高品質な酢づくりをこれからも継承するしかない。
それに尽きる。
そしてもうひとつ。
顧客との1対1のコミュニケーションを大事にすること。
「生涯富士酢を使ってもらえるお酢屋にしよう。弱者が生き残るにはそ
れしかありません」
飯尾醸造4代目の飯尾毅
富士酢ブランドを守るため、父で4代目の飯尾毅にある提案をした。
4代目は富士酢を販売しつつ、会社の経営を考え、問屋などのPB商品
(プライベートブランド)の製造もしていたのだ。
「他社のPB製造をやめて、富士酢ブランドだけに特化すべきだと父に進
言しました」
富士酢ブランドに一本化したことで売上は激減。苦しい時代がしばらく
続いた。
苦境を救ったのが、富士酢プレミアムだった。
(左)
純米富士酢と、
5代目が手がけた富士酢プレミアム
料理人をうならせた富士酢プレミアム
入社3年目ぐらいに香りも味わいもまろやかな富士酢プレミアムが完成
した。
「ミシュラン・ガイドに掲載されているような料理人の方が富士酢プレミ
アムを使ってくださるようになりました」
売上が徐々にのびていった。
この頃、鮨職人が丹後の小さな蔵に足を運んでくれるようになった。酢
飯のつくり方を教えてほしいと5代目を訪ねてくるようになったという
のだ。
当初個別に対応していたが、より多くの鮨職人に酢飯のつくり方を知っ
てもらうために世界シャリサミットを開催することにした。
「いい調味料を使えば、高いマグロがいらなくなります。結果原価が下が
り、店の人気が出る。そうすれば、お客様も喜んで来店してくれるように
なるはずです」
やまつ辻田の実生柚のす
高知産実生柚子を使った、
やまつ辻田の秀作
富士酢プレミアムを製品化する前、やまつ辻田とのコラボ商品、実生柚子
ぽん酢を開発した。
やまつ辻田では、高知県北川村の農家が無農薬、無化学肥料でそだてた
柚子を皮ごとしぼった実生柚のすを長年販売してきた。
馥郁(ふくいく)とした香りの実生柚のすにハチミツをまぜて飲んだり、
調味料にしたり、焼酎のお湯割りに入れるなど用途が多く、やまつ辻田の
ロングセラーのひとつだ。
明太子に柚のすをかけると、
まろやかに味になる
柚子が大豊作だった年がある。辻田浩之の記憶によれば18年ほど前のこ
とだ。
柚子を農家からすべて買い取ったものの、
どうすべきか思い悩んだ末、ある
ことを思いついた。
「とびきりの原材料でぽん酢を作りたいと思い、彰浩クンに相談しました」
飯尾醸造の富士ゆずぽん酢が好きだったこともあり、
「高知産柚子を使った
ぼん酢を開発してほしい」
と5代目に頼んだ。
飯尾醸造とやまつ辻田とのコラボ商品の柚子ぽん酢
やまつ辻田とのコラボ商品を製品化
飯尾醸造では他社のPB製造をやめたと先に述べた。
辻田もそれを知っていたが、
コラボという形で実生ゆずぽん酢を商品化
することができた。
「もちろん辻田さんとの関係もあればこそ。でも、それ以上に辻田さんに
は生産者へのリスペクトがあることから、実生ゆずぽん酢を開発させて
いただくことにしました」
カツオのたたきに柚子ぽん酢かけてもおいしく食べられる
無農薬・無化学肥料で育てた高知産の柚子を使い、飯尾醸造のゆずぽん
酢のレシピで実生ゆずぽん酢を生産している。
しゃぶしゃぶに夢中も飯尾醸造とやまつ辻田のコラボ商品だ。
これまで5代目は、自分で食べておいしいと思ったものを商品化してきた。
しゃぶしゃぶに夢中のアイデアも5代目の食卓で生まれた。
5代目の食卓で誕生したしゃぶしゃぶに夢中
一度使うとクセになるしゃぶ中
富士ぽん酢で食べる豚しゃぶが好きとはいえ、いつもぽん酢だとさすが
に飽きる。
ホタテ干し貝柱で引いただしに富士酢プレミアムや醤油をまぜたものに、
やまつ辻田の山椒をかけた調味料で豚しゃぶを食べてみた。
「これがべらぼうにおいしかったんです」
「しゃぶ中に山椒をかけて豚しゃぶを召し上がってください。
ヤバいぐらいおいしいです」
(5代目)
世に送り出すことにしたのだが、辻田が反対した。山椒をまぜて売ろうと
したからだ。
山椒の香りがとび、絶対おいしくないと辻田は主張した。
そこでやまつ辻田定番の、はがきサイズの山椒をセットにして販売する
ことにした。
ところが、山椒をかけずに使う人が続出。
山椒の小袋10個を、瓶の首にぶらさげて販売することにした。
「 辻 田さん の 山 椒 は あ る 意 味 、合 法 麻 薬( 笑 )。しゃぶしゃぶ に 夢 中も
一度使うとクセになる。
『しゃぶ中』
と呼んでください(笑)」
5代目とやまつ辻田の4代目の辻田浩之
「最強の弱者」を牽引してきた5代目に辻田からひと言。
「ずうっと変わらず、いまのままがんばってほしい。そう思っています」
(敬称略)
(撮影/合田慎二、取材・文/中島茂信)
4代目と5代目のツーショットは珍しいかも
【飯尾醸造】
京都府宮津市小田宿野373
0772-25-0015
営業/9:00〜12:00、13:00〜17:00
定休日/土日祝日、特別な休業あり
お酢蔵を見学できます(要予約)
詳細はHPをご覧ください
https://www.iio-jozo.co.jp/
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【飯尾醸造】
京都府宮津市小田宿野373
0772-25-0015
営業/9:00〜12:00、13:00〜17:00
定休日/土日祝日、特別な休業あり
お酢蔵を見学できます(要予約)
詳細はHPをご覧ください
https://www.iio-jozo.co.jp/
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