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丹後の棚田で無農薬栽培した米で酒を醸し、富士酢をつくっている、 という話をつづってきたが、まだふれていなかったことがある。米を栽培すると稲わらがでる。精米すれば米ぬかが残る。 酒を醸すと酒粕が残る。酒蔵の多くが酒粕を販売しているが、 飯尾醸造では酒粕もその他の副産物も製品化していない。 利用価値が大いにある副産物を、自由に使える恩恵にあずかっている料理人がいる。 五代目が宮津に開業したレストラン「aceto(アチェート)」の重康彦シェフである。「昨日は宮津にあがったカツオを稲わらでいぶしました。 稲わらも米ぬかも酒粕も無農薬栽培米の副産物を自由に使えるのが、うちの強み(笑)」アチェートの存在理由を料理で表現する重はイタリアのシチリアで修業。帰国後、イタリア料理「アルキメーデ」(渋 谷 )の オ ー ナ ー シ ェ フ を つ と め る な ど 、長 年 イ タ リ ア 料 理 に た ず さ わ っ て きた。 アチェート開業にあたり、五代目が白羽の矢をたてたのが重だった。 2017年のオープン当初は、重が得意とするシチリア色をだした料理を 提供していた。 ところが、「いまはイタリア料理をつくっている感覚はない」と豪語する。 イタリア料理人のフィルターをとおして丹後を表現する料理をつくって いるというのだ。「丹後の食材を使った料理を食べてもらうことで丹後の魅力を感じてもら う。それがアチェートの存在理由だと思っています」 重がそう考えるようになったのは、お客の大半が大阪や都内の人だからだ。 わざわざ丹後に来てもらうのだから、アチェートでしか食べられない料理 を提供したい。それにはイタリア色でもシチリア色でもなく、丹後色をだす べきだと判断したのだ。 たとえば、それは、「丹後×イタリア料理」なのだろうか。「ちょっと違いますね『。飯尾醸造×丹後×イタリア料理』です」富士酢の香りを愉しんでもらう「富士酢をそのまま使うと飯尾醸造の味になってしまいます。飯尾醸造の 味ではなく、富士酢の香りを活かす料理をつくっています」 そのひとつが玄米のリゾットだ。玄米は、富士酢の原材料でもある丹後 産コシヒカリ。2年寝かせた米を丹後でとれた魚の出汁でたく。 リゾットは、バターやチーズなどの乳製品で米と米をつないでつくる。「チーズも少量使いますが、出汁に含まれる魚のゼラチン質や米ぬかでつ ないでいます」 重が修業したシチリアでは、リゾットにはペコリーノ(羊乳のチーズ)を使っ ていた。 アチェートは、ペコリーノを加熱してせんべい状にしたものをリゾットにの せる。さらにその上にリゾットを重ね、ペコリーノをサンドイッチ。 オーブンで表面を軽く焼き、器に盛る。魚のアラでつくったソースをかけ、香 味野菜をそえる。「ハーブではありません。棚田の近くでつんできた野草です(笑)。仕上げに 富士玄米黒酢をかけます」 富士酢の香りを愉しんでもらうリゾット。食べている途中、ペコリーノで味変 する愉しみもある。ヴィンテージものの酒粕を活用するイタリア料理人がなせ米ぬかを使おうと思ったのか、「 コ ロ ナ で 店 を と じ て い ま し た 。そ の 間 、田 植 え や 稲 刈 り 、精 米 、酒 造 り などを見ながら料理に使えそうな食材を物色しました」 おかげで農薬不使用の棚田に自生する野草はもちろん、稲わら、酒粕、 米ぬかなど、富士酢の副産物にも目がとまったというのだ。 厨房には、2016年の酒粕や2023年の酒粕などヴィンテージものの酒 粕があった。酒 粕 で 鹿 肉 を マ リ ネ し た り 、ド ル チ ェ の チ ョ コ レ ー ト の 照 り だ し に も 酒 粕を活用している。「 ヴ ィ ン テ ー ジ に よ っ て 酒 粕 の 濃 度 が 異 な り ま す 。味 と 香 り を 調 節 し た 酒粕を料理のつなぎに使うこともあります」重の右腕で、日本料理出身の加畑恭徳によれば、酒粕をつなぎに使う発想は日本料理にはないという。 「酒粕を使う料理はうちならでは。なぜなら飯尾醸造がついているから。それがうちの強み」 だからこそアチェートの料理は、「飯尾醸造×丹後×イタリア料理」だと重 は言い切る。 加畑が宮津の隣町・与謝野町出身で、釣り好きだったことも幸いしている。「京都に海があることを知らなかった」重に、丹後の海の魅力や、丹後の食 文化をアチェートの料理に活かすべく二人三脚で歩んできた。次回は「丹後の食文化×やまつ辻田」を紹介する。(敬称略)【aceto(アチェート)】京都府宮津市新浜1968 0772-25-1010 営業/18:00~ 定休日/月火曜 https://www.aceto.jp/【飯尾醸造】京都府宮津市小田宿野373 0772-25-0015 営業/9:00~12:00、13:00~17:00 定休日/土日祝日、特別な休業あり お酢蔵を見学できます(要予約) 詳細はHPをご覧ください https://www.iio-jozo.co.jp/(撮影/合田慎二、取材・文/中島茂信) 【飯尾醸造】
京都府宮津市小田宿野373
0772-25-0015
営業/9:00〜12:00、13:00〜17:00
定休日/土日祝日、特別な休業あり
お酢蔵を見学できます(要予約)
詳細はHPをご覧ください
https://www.iio-jozo.co.jp/
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