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リカルドと妻の美穂が2022年6月に開業した鮨割烹「西入る」。飯尾醸造の丹後産コシヒカリと、富士酢でつくる酢飯で鮨をにぎりはじめた。鮨職人の多くがそうであるように、リカルドも古米を選んだ。
ところが、あることがきっかけで米も酢飯のつくり方も一新した。以来常連客から「いちだんとおいしくなった」と称賛される鮨をにぎるようになった。
リカルドに何があったのか。その要因をふりかえることにする。
3人のシャリ切りが衝撃的だった
2018年10月、京都宮津で鮨職人の祭典が開催された。飯尾醸造五代目が企画した第一回世界シャリサミットだ。国内外の鮨職人が数多く参加。シャリの切り方、魚の知識など鮨職人のための講習が行なわれた。
五代目はなぜシャリサミットを企画したのか。「丹後を世界唯一のシャリの聖地にしたいと思っています」(飯尾彰浩)
前回紹介したように、丹後をサンセバスチャンにするだけでなく、シャリのメッカにしようと目論んでいたというのだ。二回目は2019年10月に行なわれた。三回目は2020年開催予定だったが、コロナ禍で延期。2022年10月に第三回世界シャリサミットが開かれ40人の鮨職人が参加。そのなかにリカルドと美穂の姿もあった。3人の鮨職人が順番でシャリ切りの実演を行なった。
「姫沙羅(ひめしゃら)」(札幌市)の田中彰、「すし崇」(長野市)の久保崇嘉、「すし㐂邑」(世田谷区)の木村康司である。「3人のシャリ切りを見て衝撃をうけました」(リカルド)シャリ切りが三人三様。それぞれに個性があることに蒙を啓かれた。
「『もっとおいしい鮨をにぎりたい』。そう思っていたリカルドは酢の配合、シャリの切り方をかえることにしました」(美穂)
古米よりも新米のほうが色艶がよくて美味
もうひとつリカルドに大きな変化があった。シャリサミット後、いつものように飯尾醸造から丹後産コシヒカリが届いた。新米が出回る時期だったとはいえ、何かの手違いで古米ではなく、新米が届いたのだ。
返品すべきところを、そうしなかった。持ち前の探究心で、新米で酢飯をつくった。
「コシヒカリの新米はつややかで、思った以上においしくて感動しました」(リカルド)
古米は適度に水分がぬけて、おいしい酢飯になることから多くの鮨職人が古米を愛用している。けれど、水加減さえ注意すれば、新米のほうがむしろ色艶もよく、「おいしい酢飯になる」とリカルドは悟った。合わせ酢の配合、シャリ切りをあらためただけでなく、新米にかえたことで炊き方も刷新。
けれど、シャリサミットはリカルドの鮨がかわる「きっかけのひとつだった」と美穂は説く。
「飯尾さんが頻繁に食事に来てくださり、酢飯の温度など気づいたことをいつも的確に指摘していただいています」(美穂)
リカルドの鮨はアップデートをくりかえし、少しずついまの鮨になっていった。抹茶のような山椒があることに驚愕
シャリサミット前、五代目からうけとったものがある。「香りも味も素晴らしい山椒でした。抹茶みたいな色にも驚きました」(リカルド)
修業時代したリスボンの店にも日本産の山椒があったが、茶色だった。「来日後いろいろな山椒を使ってきましたが、『やまつ辻田』の山椒は別
物でした」(リカルド)
やまつ辻田の山椒を五感で感じた後、「魚菜料理縄屋」で辻田浩之と出会った。
縄屋でシャリサミットの懇談会が行なわれたのだ。縄屋店主の吉岡幸宣をはじめ、主催者の五代目やシャリ切りの講師3人、シャリサミット参加者も出席した。
辻田の第一印象をリカルドはこう表現する。「ファニーな人でした。話がしやすい方だと思いました」(リカルド)
翌日のシャリサミットでやまつ辻田の一味唐辛子を体験。「辛さが印象的な一味唐辛子でした」(リカルド)赤出汁に続き、故郷の焼き菓子で終わる
現在、やまつ辻田の一味唐辛子を白子にのせたり、大根おろしにまぜたものを焼き物にそえて出しているという。山椒は、リカルドの料理にかくことができないものになった。鰻や穴子など山椒を使う料理もあるが、食事の〆に出す赤出汁には山椒をひとふりしている。

赤出汁を堪能後、ポルトガルの焼き菓子、パォンデローが登場する。
一見カステラのようだが、もっとフワフワで、口のなかでとけるお菓子だ。「卵白をしっかりと泡立てているのでフワフワです」(リカルド)
食感が豊かなポルトガルの焼き菓子で、西入るの料理が終わる。そのラス前をかざる赤出汁に山椒を使ってもらえることに、辻田は感謝しているにちがいない。

【飯尾醸造】
京都府宮津市小田宿野373
0772-25-0015
営業/9:00〜12:00、13:00〜17:00
定休日/土日祝日、特別な休業あり
お酢蔵を見学できます(要予約)
詳細はHPをご覧ください
https://www.iio-jozo.co.jp/
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