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飯尾醸造4代目・飯尾毅にお酢蔵を案内してもらった

寿司が嫌いな日本人はまずいないだろう。

その寿司飯の米は、

田んぼで育てることぐらい子どもでも知っている。

では、

寿司飯に使う酢はどうやってつくるのか。

ワインはブドウから。

日本酒は米から。

京都・宮津にある

『飯尾醸造』

のお酢蔵へ行くと、

酢のつくり方を丁寧に教えてもらえる。

この日は、

4代目当主・飯尾毅が説明してくれた。

「創業以来、静置発酵で酢をつくってきました」

「9,000リットルのタンクに同量の種酢、

酒

(酢もともろみ)

、

仕込み水を入れます」

酒に含まれるアルコールは比重が軽いので浮く。

その表面に、

酢酸菌膜

(さくさんきんまく)

を浮かべる。

酸素があるところでだけで活動する酢酸菌が、

アルコールを食べて酢にかえる。

お酢蔵はかぐわしい酢の香りがただよっていた。予約すれば見学可能

アルコールが酢にかわると比重が重くなり、底に沈む。

発酵は表面だけですすむことから静かな対流がおこり、やがてタンク全体

が酢にかわる。

「これがむかしながらの『静置発酵』

と呼ばれる製法です。うちでは明治26

(1893)年の創業以来、静置発酵で酢をつくってきました」

静置発酵を行なう際、タンク内の温度が重要になる。

「酢酸菌が発酵する際熱を発し、表面は40℃近くになりますが、底の温

度は室温と同じです」

小学校で習ったように、温度差が激しいほど対流ははやくなる。

タンク表面に浮いているのが酢酸菌膜。酢酸が発酵し、酢ができる

気温差が少ない夏は、酢ができるまでに4か月かかる。

一方、気温差が激しい冬は、

3か月ほどで酢ができる。

完成した酢を、さらに8か月以上寝かせて熟成させる。

「その間空のタンクに酢を移す作業を数回行ないます。デキャンタージュ

のように、酢が空気にふれることでまろやかな味になっていきます」

原材料の米つくりから数えると、酢になるまでに最短でも2年の歳月を

要する。

ちなみに、このタンク1本で、一升瓶の純米富士酢が5,000本つくれる

そうだ。

「酒蔵にある17本のタンクで純米酒と玄米酒をつくっています」

と藤本杜氏

「富士酢になる酒を酒蔵で醸してきました」

飯尾醸造には、4代目が案内してくれたお酢蔵のほか、もうひとつ蔵がある。

杜氏の藤本直充(まさのぶ)がいる酒蔵だ。

藤本に酒蔵を案内してもらった。

「ここでは富士酢づくりにかかせない酒を、2種類醸しています」

「スッキリした酒にしてしまうと酢にしたとき、

旨味のない酢になってしまいます」

(藤本杜氏)

ひとつは、純米富士酢と富士酢プレミアムの原材料になる純米酒。

もうひとつは、富士玄米黒酢用を仕込む玄米酒だ。

「純米酒も玄米酒も五百万石でつくった米麹に、コシヒカリを掛米にし

て酒を作っています」

純米酒と玄米酒を試飲させてもらった。

後者は甘みこそあったものの、スッキリとした味わいではなかった。

前者はあきずに飲みつづけられそうな旨味こそあったが、スッキリさに

かける酒だった。

「なぜなら、スッキリとした酒にしない酒づくりをしているからです」

麹室(こうじむろ)。35℃前後に冷ました蒸米をここにはこび、

布をかけて全体が均一の温度になるまで保管する

五百万石に麹菌を繁殖させた米麹。

「噛んでいると甘みが出てきます」

(藤本杜氏)

「精米歩合80%の米で酒をつくっています」

〈スッキリしない酒づくり〉とはどういうことか。

米の表面には、

ビタミンやたんぱく質、脂質などの栄養素がふくまれている。

酒をつくる際、それらが雑味になるため、磨いた米で酒を醸す。

玄米の表面を削って残った米の割合を「精米歩合」と呼び、%であらわす

純米大吟醸の精米歩合は50%。純米吟醸酒は60%。

純米酒は70%以下。

ちなみに、食べる米の精米歩合は92%だそうだ。

麹米に須いる五百万石。

このほか、掛米のコシヒカリも丹波の棚田で育てたものを使っている

ところが、飯尾醸造の純米酒は、麹米も掛米も精米歩合が80%だという

のだ。

「雑味を残した米で醸すことで酢にしたとき、旨味をふくんだ酢をつくる

ことができます」

麹米の五百万石も掛米のコシヒカリも、代々地元丹後の契約農家に栽培

してもらってきた。

お酢蔵見学の前に、

四代目が動画を見ながら棚田での稲作の説明をしてくれる

次回は、その米について五代目当主・飯尾彰浩に語ってもらおう。

                           (敬称略)

(撮影/合田慎二、取材・文/中島茂信) 【飯尾醸造】
京都府宮津市小田宿野373
0772-25-0015
営業/9:00〜12:00、13:00〜17:00
定休日/土日祝日、特別な休業あり
お酢蔵を見学できます(要予約)
詳細はHPをご覧ください
https://www.iio-jozo.co.jp/
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