「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」で優勝した弓削啓太。画像/弓削啓太提供
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2017年10月、弓削啓太31歳。
当時、「SALONE GROUP」の「QUINTOCANTO(クイントカント)」のシェフだった弓削は、
イタリアへ飛んだ。
イタリアのパスタメーカー、バリラ主催の「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2017」に出場するためだ。
同大会は、世界12か国以上からえらばれた34歳以下のイタリア料理のシェフが技、味、
プレゼンテーションを競うことから〈パスタ界のワールドカップ〉とよばれている。
2017年の同大会には、世界各国の若手料理人20名が参戦。
その大半がイタリア人で、弓削は日本代表として出場した。
シェフになって初の檜舞台だったが、高校2年の夏、大歓声でわく甲子園に立った弓削は、
「テンションがあがる程度の緊張感しかしなかった」と告白する。
3人のファイナリストに残ったものの、惜しくも準優勝。
「日本人は世界一にならなければ」
「SALONE2007」のシェフになっていた弓削は、2019年大会にリベンジすることにした。
開催地はパリ。パリで修業した弓削にとってパリは思い出の地だった。

 
〈パスタ界のワールドカップ〉に再挑戦
調理時間は1時間。優勝するにはパンチがあり、旨味があるパスタを作らなければならない。
弓削は考えた。日本人になじみがあり、イタリア人にとって定番のパスタはなにか。
「だれもが好きなチーズを使った『ペンネ アル ゴルゴンゾーラ』を作ることにしました」
「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ」は仕上げに黒胡椒をかけてキレをだす。黒胡椒のかわりに、和の香りを代表する山椒を使ったらどうだろう。
「あまり深く考えずにためしたら、とてもおいしいパスタができました」
山椒をかけた「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ」を、プロの料理人に食べてもらえる機会がおとずれた。飲食業界で働く人が集まり、酒と料理のペアリングを研究する勉強会にさそわれたのだ。唎酒師、千葉麻里絵が主催する、通称「麻里絵会」に飛び入り参加。
						  

木村康司が「やまつ辻田」の山椒を紹介してくれた
〈パスタ界のワールドカップ〉で山椒を使ったパスタを作ろうと考えている旨を勉強会の参加者に伝え、試食してもらった。
「みなさんに食べてもらったら盛りあがりました(笑)」
そのなかに、ひとりだけだめ出しをした人物がいた。「この人が好きやねん」の初回に登場した「すし 㐂邑(きむら)」の木村康司だ。
「ナショナルブランドの山椒を使っていたのですが、『辻田さんの山椒を使うべきだ』と木村さんに指摘され、『やまつ辻田』を紹介してくれました」
辻田浩之に連絡したところ、すぐに山椒がとどいた。
「香りもよかったし、色もきれいでした。これがあれば優勝できるのではないかと思えたぐらい素晴らしい山椒でした」
「やまつ辻田」の山椒にかえたことでレシピを微調整。山椒に若干辛味があることから、ソースに甘みをくわえることにした。												  

「絶対に勝たなければならない大会でした」
弓削はパリで開催された「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」にのりこんだ。
2017年大会と同じ運営スタッフだったこともあり、アウエイだったが、ホームではないかというぐらい歓迎された。
「おかえりみたいな雰囲気で、関係者が応援してくれました」
私は弓削に何度も会っているが、気どらず、おごらない弓削に親しみを感じているひとりだ。国籍を問わず〈弓削スマイル〉はこころに響く。
関係者に温かくみまもられるなか、「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ」を完成させた。
ソースに甘みをだすため、故郷佐賀の酒蔵「基峰鶴」の「Velvet純米吟醸」を煮詰めたものを加えた。
もうひとつ、弓削が用意した食材がある。「鈴木酒造店」(福島県浪江町創業、現山形県長井市)の「本みりん 黄金蜜酒磐城壽」だ。
「『ペンネ アル ゴルゴンゾーラ』を食べて、蜂蜜の香りがする本みりんを飲む口内調味をしてもらうプレゼンをしたら会場がどっとわきました(笑)」
山椒を使った「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ」は見事優勝。
「いろいろな方がサポートしてくれたので負けるわけにはいきませんでした。勝ちにいかなければならない大会でした」									  

「優勝できたのはチームSALONEのおかげ」
弓削は山椒の恩人だと辻田は絶賛する。
「山椒は世界を制するぐらい素晴らしい香辛料だと自負しています。弓削ちゃんは、山椒を世界にしらしめてくれた恩人」	
洋のゴルゴンゾーラと、和の香辛料の山椒と日本酒で最上級の味わいをひきだした「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ」。
この料理に欠くことができない「やまつ辻田」の山椒は、「すし 㐂邑」の木村康司が紹介してくれた。木村と出会えたのは、木村が参加する「麻里絵会」にさそってくれた人がいたから。
そして、もうひとつ。
パスタのソースに用いた、煮詰めた酒で甘みを演出するテクニックは、弓削が料理人としてあゆみはじめた最初のレストラン「シェ・イノ」創業者、井上旭の十八番だった。師匠の井上から継承したその技を、大一番で披露したのである。
人と人とのつながりを大切にしてきた弓削だから優勝できた、といういい方もできる。
「優勝したのは僕ではありません。『SALONE2007』がチームとしてまとまっていなければ、挑戦できませんでした。チームSALONEの勝利です」
野球の神様と料理の神様。
ふたりの神様が、弓削啓太という料理人をつくり、そだててきた。
正式名「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ・プロフーモ ディ ジャポネーゼ」。
世界が認めたこの料理を「SALONE2007」では1月から3月頃まで提供している。

次回は、弓削が配信している「YUGETUBE(ユゲチューブ)」を紹介する。
(敬称略)
(取材・文/中島茂信、撮影/海保竜平)
弓削と木村をつなげてくれた千葉麻里絵が、新店舗「EUREKA(ユリーカ)!」をオープンした。

【SALONE2007】
神奈川県横浜市中区山下町36-1 B1F
045-651-0113
営業/12:00~15:00 (LO13:00)、18:00~22:30 (LO20:00)
無休
http://www.salone2007.com/
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