夜の営業終了後、昆布や丸鶏などを寸胴鍋にいれてから帰宅する
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「らーめん 森や」(以下、森や)では正油味、塩味、味噌味などのラーメンのほか、期間限定のラーメンもある。
		すべてのラーメンのベースになっているのが、無化調のスープだ。
		どこのラーメン屋もスープだけは厨房で仕込んでいるはずだが、麺は製麺所にたのんでいる店が多い。
		横浜のこの店ではワンタンの皮こそ外注しているものの、麺は店主の林佳広が毎日別室で打っている。
		手をぬこうと思えばいくらでもできるはずなのに、しようとしない。
		ラーメンに人生をささげているとしか思えない林の、営業時間外の姿を紹介する。 国産厳選素材で無化調スープを仕込む
		毎朝、林は7時半頃厨房に立つ。
		昨夜といっても深夜1時過ぎだが、帰りがけに用意した寸胴鍋に火をつける。水をはった鍋には昆布、げんこつ、豚の背脂、丸鶏がはいっている。しばらく煮込んだら玉ねぎ、鰹節、煮干しを加え、計3時間半から4時間煮込めば、スープが完成する。
		昆布は、襟裳の高橋祐之が送ってくれる日高昆布だ。
		丸鶏は、山梨の黒富士農場から届く平飼いの鶏。じつは、丸鶏には2種類あるという。膝から下がないものと、もみじと呼ばれる足付きの丸鶏だ。
		「当初、もみじ付きを送ってもらっていましたが、ある日突然、足なしが届きました。もみじ付きとなしではスープのコクが異なりました」
		ゼラチンを多くふくむもみじが、スープの味を左右するようだ。以来、もみじ付きを送ってもらっている。 4種類の北海道産小麦で麺を打つ
		「森や」では、十勝産と上富良野産の「きたほなみ」、「ゆめちから」、「春よ恋」、「ハルユタカ」の4種類の小麦で2種類の麺を打っている。「ハルユタカ」の中太ちぢれ麺と、4種類をブレンドしたストレートの細麺だ。
		昼の営業がはじまるまでに麺帯(生地を帯状にしたもの)を作る。昼の営業後、寝かせておいた麺帯を製麺機にかけて麺を切る。なぜ製麺所にたのまないのか。
		「冬と夏では、麺の硬さに微妙な違いがでます。夏はゆるみ、冬は固くなる。均等な太さの麺を打つために、麺の太さを調整しています」
		麺帯を無造作に切っていると思っていたが、麺の太さを目と手で確認しながら太さの目盛りを微調整しているというのだ。
		「製麺所はそんな面倒なことをやってくれません。自家製麺なら自分の感覚で微妙な変化に応じられます」
		打った麺はすぐに使わず、冷蔵庫で2日ねかせてから供する。それが「森や」の流儀だ。 生産者応援のために規格外の卵を注文する
		林が麺を打っている頃、妻の純衣は卵の“体重測定”をしていた。卵は「黒富士農場」の放牧卵だ。1個1個卵の重さをはかり、その数字を鉛筆で卵に書きとめていた。
		なぜ卵の重さをはかるのか。純衣に尋ねた。
		「半熟の味付け玉子を作るのですが、規格外を送ってもらっているのでサイズがバラバラ。同時にゆでると黄身の固さが一律になりません。サイズごとにゆで時間を調節することで、同じ状態にゆで上がるようにしています」
		平日は味付き玉子を30個、週末は60個用意する。そのため純衣は毎日この作業をしている。同じサイズの卵を注文すれば、こんな面倒なことをしなくてもいいはずだ。
		「お母さん鶏は規格外の卵を産もうと思っているわけではありませんよね。サイズは人間が勝手にきめたものです。それに生産者が潤わないとうちも店をまわせません」
		共存共栄。そのためにも売りにくい規格外の卵を送ってもらっているというのだ。 信頼できる食材を使うために生産者に会う
		「森や」に改名後、17年間無化調ラーメンを作ってきたのは、飲食店には客の健康をあずかる責任があると考えてきたからだ。北海道の生産者や、地元横浜で野菜を無農薬栽培している農家、「堀河屋野村」の三ツ星醤油、「白扇酒造」の本みりんなど、できる限り生産の現場を見た上で食材を選んできた。
		どんな人がどんな思いで食材を作っているのか、知りたいと思っていたからだ。まだ会えていない生産者も多いが、納得のゆく食材を選ぶように心がけてきた。
		味噌は新潟県長岡の「味噌星六」の三年ものを使っている。
		「夏を三回越したことで適度に水分がぬけて、香りも変化しています」
		この味噌に「白扇酒造」の酒麹、襟裳産の鮭魚醤、蜂蜜、塩、しょうが、練りごまをまぜたものにスープをそそぎ、味噌ラーメンを作る。
		「味噌星六」の三年ものの味噌は売り切れることが多い。欠品の場合は二年ものを送ってもらい、調味料の配合を変えて味噌ラーメンを作るのだそうだ。 味の基本だからこそ塩は5種類用意
		塩は5種類を使い分けている。三ツ星醤油らーめんには、「百姓庵」(山口県長門)の塩をもちいる。日本海の海水を鉄釜で炊いた塩だ。小笠原の海水で作る「小笠原自然海塩」(東京都墨田)の塩や、高知県四万十の山中で作る「山塩小僧」の塩、沖縄県うるまの「あるぬちまーす」の塩のほか、「伯方塩業」(愛媛県松山)の伯方の塩も厨房にある。
		「17年間、理想とする食材を追いかけてきましたが、自分で集めたものよりも北海道の生産者や『黒富士農場』に教えてもらったもののほうが多いです」
		生産者同士、横のつながりがある。会話のなかで出てきた生産者に連絡をとり、取引がはじまることが多いそうだ。生産者との会話のなかで何を感じ、どう行動するか。常にアンテナをはってきた林だからこそ食材が集まってきたともいえる。
		
		次回は、食材の“里帰り”を紹介する。(敬称略)
		(取材・文/中島茂信、撮影/海保竜平) 【らーめん 森や】
		神奈川県横浜市栄区長沼町339二本松ハイツ105
		 045-390-0881
		営業/11:30〜15:00、17:30〜23:00
		定休日/火曜
		駐車場あり
		https://twitter.com/chiko3yoshi3
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